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腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)とは
原因・症状・診断・治療・予防について詳しく解説
腰部脊柱管狭窄症とは、腰椎(腰の背骨)部分の脊柱管(神経・馬尾神経・神経根が通るトンネル状の空間)が狭くなり、神経やその周辺構造が圧迫されることで、腰・お尻・下肢に痛み・しびれ・歩行困難などの症状を引き起こす疾患です。
「原因」「症状」「診断」「治療」「予防・日常生活での工夫」の5つの柱で解説します。
1.原因
脊柱管が狭くなる主な原因・メカニズムは次の通りです。
- 加齢による変化:椎間板の変性・椎体・椎間関節の変形・黄色靭帯の肥厚など、骨・靭帯・軟部組織が変化して脊柱管内が狭くなる。
- 椎間板ヘルニア、椎体すべり症、椎間関節症など既往がある場合:これらにより背骨・椎間関節・靭帯の構造が変化し、狭窄が進むことがあります。
- 先天的に脊柱管が狭い体質の場合:軽い変化でも症状が出やすくなります。
- その他:長時間の立位・負荷、姿勢不良、運動量低下などが間接的に影響することもあります(ただし主要因ではありません)。
2.症状
この疾患の特徴
腰部脊柱管狭窄症では、腰痛を伴うこともありますが、主たる症状は下肢(脚)の症状です。腰痛があまり強く出ず、主に下肢症状(しびれ・痛み・脱力)が目立つケースも多くあります。
腰部脊柱管狭窄症の典型的な症状には、次のようなものがあります。
- 下肢(太もも裏~ふくらはぎ・足先)にしびれ・痛み・重だるさを感じる。
- 歩行時・立っている時に症状が悪化し、少し休むとまた歩けるようになる「間欠跛行(かんけつはこう)」が高度に特徴的。
- 特に背筋を伸ばして歩く・立つ時に症状が出やすく、前かがみ(腰を丸める)姿勢になると楽になることが多い。
「間欠跛行」についての詳しい説明
腰部脊柱管狭窄症で見られる「間欠跛行」は、「神経性間欠跛行」と呼ばれるものです。
血管の病気(閉塞性動脈硬化症など)でも似たような症状の「血管性間欠跛行」が起こりますが、神経性間欠跛行は「前かがみで休むと楽になる」という特徴があります。この点が両者を見分ける重要なポイントとなります。
重篤な症状について
まれに、馬尾神経(腰椎下部の神経束)が強く圧迫されると、排尿・排便障害・足の麻痺など重篤な症状が出ることがあります。このような症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。
3.診断
診断には以下の流れ・検査が一般的です。
問診・症状の確認
歩行距離・しびれ・痛み・姿勢との関連などを聞き取ります。
身体診察
神経根症状(知覚・筋力・反射の変化)などを確認します。
画像検査
- レントゲンで骨変形・すべり症などを確認。
- MRI検査が最も有用で、脊柱管の狭窄状況・神経圧迫状態を可視化できます。
- 必要に応じて造影検査・ブロック注射による診断的処置も行われます。
診断における重要な注意点
画像で狭窄が確認されても、必ずしも症状が出るとは限りません。症状の有無・程度・生活への影響を総合判断する必要があります。
4.治療
治療は症状の程度・生活への影響・神経圧迫の状況に応じて、保存療法から手術療法まで段階的に行われます。
保存療法(まずはこちらから)
- 安静・活動量の調整:過度な負荷を避ける。
- 薬物療法:痛み止め、消炎鎮痛剤、神経痛を和らげる薬など。
- 装具療法:コルセットなどで腰の安定・負荷軽減を図る。
- 神経ブロック注射:硬膜外ブロックなどで神経炎症・神経圧迫を軽減する。
- リハビリテーション・運動療法:腰・下肢の筋力・柔軟性を維持・向上させ、歩行能力の改善を図る。
手術療法
保存療法で改善が乏しい、または神経麻痺・排尿排便障害など重篤な症状が出ている場合には、手術が選択されることがあります。
- 手術内容としては、狭くなった脊柱管を広げる「除圧術」、あるいは脊椎の不安定があれば固定術を併用するケースもあります。
- 手術後の回復・リハビリも重要です。
5.予防・日常生活での工夫
症状の進行を抑え、生活の質を維持・改善するために、日常でできる工夫を紹介します。
- 正しい姿勢を意識する:立つ・歩く・座る際に、背筋を伸ばしすぎず、腰を反りすぎず、前かがみになりすぎずバランスを保つ。
- 定期的な軽い運動・ストレッチ:腰・下肢の筋力・柔軟性を維持することで、神経圧迫の抵抗力を高める。
- 長時間の立位・歩行・重い荷物の持ち運びを控える:休憩・姿勢変更をこまめに行う。
- 前かがみ・座位・少しかがむ姿勢が楽になることが多いので、立ち続ける・背筋を伸ばしたまま歩き続けることに負担を感じたら、少し腰を曲げる・ベンチで休むなど工夫しましょう。
- 生活習慣の改善:肥満・喫煙・運動不足などが間接的に背骨・椎間関節・靭帯に負荷をかける可能性があります。適度な体重・禁煙・適度な運動を心がけましょう。
日常生活で意識したいポイント
腰部脊柱管狭窄症の方は、「前かがみの姿勢」が症状を和らげるという特徴があります。
買い物カートや杖を使用することで自然と前かがみの姿勢を保ちやすくなり、歩行が楽になることがあります。無理をせず、自分に合った工夫を取り入れることが大切です。