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SFTSとは
SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome:重症熱性血小板減少症候群)は、SFTSウイルス(SFTSV)による感染症です。2009年に中国で初めて報告され、日本では2013年に初症例が確認されました。主にマダニを媒介として感染し、重篤な症状を引き起こすことがある新興感染症です。
病原体と感染経路
病原体
- SFTSウイルス(SFTSV):ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類されるRNAウイルス
主要な感染経路
- マダニ刺咬:最も一般的な感染経路
- フタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニなど
- マダニの活動期(4月~11月頃)に注意が必要
- 接触感染:稀だが重要
- 感染動物(イヌ、ネコなど)の血液・体液との接触
- 感染者の血液・体液との接触(医療従事者は特に注意)
臨床症状
急性期症状(発症1週間以内)
- 発熱(38℃以上の高熱)
- 血小板減少(100,000/μL未満)
- 白血球減少
- 消化器症状:食欲不振、嘔気・嘔吐、下痢、腹痛
- 全身倦怠感、頭痛
重症化時の症状
- 出血傾向:紫斑、鼻出血、消化管出血
- 神経症状:意識障害、痙攣、錯乱
- 呼吸器症状:呼吸困難、肺水腫
- 循環器症状:ショック、心不全
- 腎機能障害
診断
検査所見の特徴
- 血小板減少(<100,000/μL)
- 白血球減少(<4,000/μL)
- CK(クレアチンキナーゼ)上昇
- LDH上昇
- AST・ALT上昇
確定診断
- ウイルス分離
- RT-PCR法によるウイルスRNA検出
- 抗原検出(迅速診断キット)
- 血清学的診断:IgM・IgG抗体価の上昇
治療
現状の治療方針
現在、特効薬やワクチンは存在しません
支持療法
- 対症療法
- 解熱鎮痛薬(アスピリンは出血リスクのため避ける)
- 補液による水分・電解質管理
- 重症例への対応
- 血小板輸血:重篤な出血時
- 新鮮凍結血漿輸注:凝固異常時
- 人工呼吸管理:呼吸不全時
- 血液透析:腎不全時
- 抗ウイルス薬
- ファビピラビル:対症療法として日本国内でSFTSに対する使用が承認されている
予防対策
マダニ刺咬予防
- 服装の工夫
- 長袖・長ズボンの着用
- 首にタオルを巻く
- 足首の隙間をテーピングで覆う
- 明るい色の服を選ぶ(マダニの発見が容易)
- 忌避剤の使用
- DEET含有忌避剤の皮膚への塗布
- ペルメトリン含有製品の衣類への処理
- 野外活動後の対応
- 帰宅後すぐに入浴・シャワー
- 全身のマダニ付着チェック
- 衣類は60℃以上の熱湯処理または乾燥機使用
マダニ咬着時の対応
- 無理に引き抜かない(口器が残存するリスク)
- 医療機関で適切な除去を受ける
- 除去後2週間は健康状態を観察
- 発熱等の症状出現時は速やかに医療機関受診
医療従事者への注意事項
標準予防策の徹底
- 手袋、ガウン、マスクの着用
- 針刺し事故の防止
- 血液・体液の適切な処理
院内感染防止
- 接触予防策の実施
- 患者隔離の検討(重症例)
- 検体取り扱い時の注意
疫学と流行地域
日本国内の発生状況
- 西日本を中心とした発生(特に中国・四国・九州地方)
- 年間約100例前後の報告(2023年現在)
- 致命率は約20-30%
流行の季節性
- 4月~11月:マダニの活動期
- 5月~8月:発生のピーク
まとめ
SFTSは致命率の高い重要な新興感染症です。現在のところ特効薬はなく、予防が最も重要な対策となります。野外活動時のマダニ対策の徹底、マダニ咬着後の適切な対応、そして医療従事者の感染防止策の実施が求められます。
疑い症例を診察した際は、速やかに保健所への届出を行い、適切な検査・治療につなげることが重要です。また、地域住民への啓発活動も継続的に行う必要があります。