常陽リビング 10月15日号 Q and A
Q;最近、父が家から帰ってきたら、子供の時からの脱腸が悪くなったかもしれないと言っております。なにがおこっているのですか?
A; 下腹部や足の付け根、鼠径部から臓器が腹の外に出る病気を鼠径ヘルニアと呼びます。茨城県の男性人口142万人に照らしてみると、実に38万人(27%)が人生で一度は鼠径ヘルニアになります。年齢は、10歳未満の子供と40歳以上の男性、いわゆる子供と大人の男性たちに多い傾向があります。子供に起きるタイプは、生まれつきの病気です。大人も70%は生まれつきの病気が小児期に見当たらず、大人になってから大きくなったものです。
哺乳類の雄の睾丸はおなかの中にできます。だんだん外に下りてくる構造をしております。睾丸は気温20℃程度が一番保存しやすいため、37℃の体温では、保存には熱すぎるからです。イルカやクジラは哺乳類ですが、背中に睾丸があります。水中で暮らしているので外で冷却する必要がありません。象も水生生物だったそうなので、背中に睾丸があります。小さいネズミなども、足の間にありますが外にはほとんど出ていません。アザラシやセイウチには玉袋はありませんが、アシカにはあります。進化の過程で同じ哺乳類でも形が違うようです。豚や犬、猫の睾丸は玉袋に下りてきますので、鼠径ヘルニアになります。実際、動物病院では犬や猫に対する鼠径ヘルニアの手術を行っております。霊長類である人間は2足歩行に進化したので、重力がかかり骨盤内へ負荷を与えて生物の構造ではない生活様式が鼠径ヘルニアを誘発していると考えられます。結果、男性の27%が鼠径ヘルニアになります。では、「女性はどうなっているの?」と疑問に思うかもしれません。次回は「女性の鼠径ヘルニア」をテーマとします。
太田 勝也 医師
ヘルニアセンター長